【シリコンバレー体験記】(1)伝説になった2人の起業家
2008年7月28日(月)09:03
「ITの聖地」シリコンバレー。アップル、Google、インテル、サン・マイクロシステムズなど誰もが知っている世界的な企業の本社が集まり、次々と新たなビジネスが生み出されているというが…IT企業に勤めているものの文系出身でアメリカ本土にも行ったことがない私には想像もつかなかった。このたび日本人エンジニアを対象にしたシリコンバレーツアー(パソナテック主催)に同行取材する機会に恵まれた。この目で見たシリコンバレーはやっぱり「すごかった」。まずはシリコンバレー伝説の始まりとなった2人の起業家の話から。
■いきなり草原と森…ここはどこ?

高速を降りてもバスは森の中を進む。いったいどうなっているのかと思っていたら、添乗員から衝撃の言葉が。「シリコンバレーという地名はありません」。カリフォルニア州の11市からなる一帯の俗称だそう。ちなみに谷は「canyon」でvalleyは「盆地」。英語ができないのがバレバレだ。そういえば遥か彼方に山がうっすら見える。シリコンバレーは日本では考えられないほどスケールのでかい「盆地」なのだ。

「妻が仕事を持っていたおかげ」(DVDシリコンバレーの百年より)で起業できた二人に538ドルの資金を出したのが同大のフレデリック・ターマン教授。このような個人投資家をエンジェルと呼び、新たなビジネスが生み出される活力となっている。大学も積極的に「投資」を行い、スタンフォード大はグーグル株の売却で400億円を越える資金を手にしている。エンジェル自身も元起業家であることが多い。激しい競争のなかで優れたアイデアでも大半は失敗するが、ごく一部の大成功は巨万の富をもたらす。「前例がないため」投資に二の足を踏みがちな日本と違い、リスクを負っても投資を惜しまない。才気あふれる若者が「トライ&エラー」を繰り返せる環境がシリコンバレーの強みなのだ。
■社長室の机に小銭を置く理由は
ツアー一行は、そのヒューレット・パッカード(HP)社を訪れた。HPといえば日本ではプリンターが有名だが、パソコンのシェア世界1位、従業員17万人の超巨大企業。昨年の売上は約11兆円。栄枯盛衰の激しいシリコンバレーで成長を続けた秘密は、従業員を大切にする企業理念「HPウエイ」にある。

両氏の執務室のドアは常に開かれている。HPウエイの理念のひとつ「オープンドア」の実践だ。社員は誰でもいつでも両氏の執務室に入り意見を述べることができた。彼ら自身も頻繁に従業員に声をかけていた。上司に自由にものが言える雰囲気が成長の原動力となっている。
またヒューレット氏は常に机の上に数十枚のコインを並べていたという。一見、不用心に見えるが、これも「社員を信じる」HPウエイの実践の一つ。決定するのは経営者の仕事だが、実行は現場に徹底的に任せる。そこには強い信頼関係が必要なのだ。「信頼の象徴」のコインはいまも机の上に無造作に並べられていた。
■頭脳労働に疲れたら森の中で散策も
エレクトロニクス、半導体(シリコン)、そしてITへと新たなビジネスを求め続けてきたシリコンバレーで今一番のトレンドは「環境」だ。仮想化ソフトウェアの開発で急成長をとげたVMware社は、事業内容もオフィスも地球環境に優しい「グリーンIT」をうたっている。仮想化技術を使えば一つのコンピューター上で複数のOSやアプリケーションの動作が可能。大量のサーバーと電力が必要なデータセンターで大幅な省コスト・省電力になる。
